人生の豊かさにつながる服とは

洋装士/ Atelier BERUN代表 竹内大途さん

 

私たちは、毎日必ず食事をするように、毎日必ず衣服に袖を通す。おいしいものを食べたいと思うように、自分が幸せを感じる服を着たいと思い、人はおしゃれをする。しかしながら、私たちがおいしいものに考えを巡らせるように、私たちは装いに深く考えを巡らせることは、思いのほか実は少ないのかもしれない。

 

本当の“おいしい”が私たちを心から満たすように、私たちを心から満たしてくれる装いとは一体なんだろうか。それは単に素材感やフィット、デザインだけが決めるものではない。

年々、世の中の装いがカジュアル化し、内と外の装いの境界線が曖昧になっていく中、スーツというフォーマルウェアに日々向き合い、装いの本質に真正面から向き合う人がいる。

  

本当のゆとりを与えてくれる服は美しい

「本当の着心地を突き詰めていくと、自ずと美しさに辿り着きます。ビスポークにおいて、例えば、その方を生かす本当のゆとりを与えてくれる服は美しい。それは、近年主流のルーズフィットというものとは違います。」

 

東京・青山の骨董通りでビスポークテイラー <Atelier BERUN> を営む竹内大途さんはそう話す。日々、クライアントへ普遍的な装いの愉しさを提案する中で、大途さん自身が様々なスタイルのビスポークのスーツを着こなし、メンズフォーマルを追求し続けている。

「装いの基準を上げることで、自分を律する。それは、楽な格好をしないで、少し手間をかけることが、最終的に自分を高めていくことにつながっていると思うからです。」

大途さんは、洋服においても、日常生活においても、自己否定につながる行為はなるべくしたくないという。


「丁寧に手をかけて作られたもの、背景を想像できて感謝できるものという意味で、常に自分の周りには基準の高いものを置いた方がいいと思っています。誰が見ているわけではないけれど、自分との信頼関係を壊さないためにも、そういうものに囲まれて生きていたいと思うんです。」

 

ほんの少しの心地よい緊張感、それが美しさを創る

長年、洋装の世界に身を浸している大途さんだからこそ、近年浮き上がっていた感覚がある。

「日本人として洋服を着るという感覚を一番大事にしています」と話してくれるように、洋装とそれにまつわる世界を深く掘り下げていけばいくほど、自分自身のアイデンティティに深く向き合うこととなった。その一つとして、大途さんは毎週、お茶と書の道を学んでいるという。

「お茶を点てながら、日本人の精神性の素晴らしく豊かな部分を目の当たりにします。実際、茶道、書道といった“道”に向き合う中で、その道中、つまり一つ一つの行いの中に学ぶことが溢れています。例えば、昨日の茶道教室で気がついたのは、お茶を立てるときに、自分が居心地がいい、と思う姿勢と、本当の意味で美しく見える姿勢は違うこと。多少辛くても、ほんの少しの緊張感を持った姿勢が、美しさを作り上げているんです。」

それは、日々スーツに袖を通している時に感じることと自然と重なった。

「日常においても、僕は、ほんの少しの心地よい緊張感が美しさを作り上げていると感じます。」

そう大途さんは話す。

また、自分を心地よい緊張感の中においておくことで、つまり今の自分が「こう在りたい」と思う場所に自らを持ち上げておくことで、自ずとそこが自分の基準となっていくという。

大途さんはクライアントにスーツを作るとき、現在のその人の2、3歩先をいったスーツを提案する。最初のうちは、そのスーツに似合うように、そこに近づけるように、その持ち主は努力する。時間をかけて、やがてその服と同じ歩調で歩けるようになる。そして気がつくと、一生物の相棒になっている—-。スーツであっても、茶道における茶碗であっても、本当に心を込めて作られたものの真の価値とは、そのものとの関係性の中で、自分自身がより向上し、人間として整っていくところにあると大途さんは教えてくれた。そして、同時にそこには必ず、ストーリーが存在するのだと。

作り手のストーリー、そして物と使い手のストーリーが、互いに紡ぎあって新しい物語を描く先には、ものを大事にする心、そして深い愛着心が存在する。


普段、会う人や場所、シチュエーションなど、他の人に見られることを前提に服を選ぶ大途さんが、家など人に見られていない時に選ぶ服も “心地よい緊張感”が、彼にとっての普段着における心地よさだという。

「プライベートの装いに関しても、常にもう一人の自分が見ている感覚があるので。誰が見ていなくても、大切にしたいものはあまり変わらないですね。」

と大途さんは笑う。


 

誰かに選んでもらうからこそ生まれるストーリー

そんな大途さんが、日々の中で最もプライベートな時間、睡眠の時間に愛用しているのはGOOD NIGHT SUITのパジャマだ。

睡眠のための正装、というGOOD NIGHT SUITのブランドコンセプトはどこか大途さんの話す「心地よさ」に重なるところがある。パジャマは人から選んでもらうのが好きだという大途さん。

「時には予想外のカラーだったり、デザインだったり、人に選んでもらうからこそ、そういう驚きもある。そして何より、自分のことを考えて選んでくれたからこそ、また新たな価値が生まれるんです。」

東京に出勤する日は、真夜中の帰宅が多いという。それでも、朝は5時ごろに起床するお子さん達と一緒に起きて時間を過ごす。

心地よい緊張感のある日々の中にあるのは、家族の温もりという、心を満たす本当の意味でのラグジュアリーな時間に違いない。

 

 

 

 

text:Misha Aoki Solorio


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竹内大途さん
1988年青森生まれ。スタイリストとして活躍後、様々な出会いを経てフォーマルウェアの世界に足を踏み入れる。イギリス留学後、東京・赤坂見附にて完全予約制のビスポークテイラー<Atelier BERUN>をオープンする。その後、神楽坂の路面店や赤坂見附で再びサロンを開き、現在は東京・南青山に移転。”洋服を通じて、人生をより豊かにする”をコンセプトに、日々、日本のメンズフォーマルの水準を上げるべく、テイラーとしての活動に留まらず様々な発信をしている。 洋装の正しい着こなしを提案するyoutubeチャンネル @AtelierBERUNは、現在はフォロワー者数5.3万人をこえる。


□WEBSITE
https://berun.jp/
□instagram
@berun.bespoke_suit

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